2006/03/14

不確定性が快楽を呼ぶ ~本『脳内現象』(茂木健一郎 2004)~

たとえばあなたはCR大海物語を打っているとしよう。序盤戦、試し打ちの段階でまだ呼吸さえ整っていない。画面は淡々と進行し、あなたはなかなか回るようだと判断し続行を決意する。そのうち5千円ほど入れたところでダブルリーチがかかる。瞬間、画面右端から魚群出現!いきなりあなたは緊張場面に突入する。

おそらく現在、一般的にはこの瞬間がパチンコを打っていて最高にアツイ瞬間だろう。

その理由は魚群リーチの抜群の信頼度にあるようだ。といっても信頼度が高いという意味ではない。おそらくその信頼度は50%前後だろう。そしてこの50%という値こそがプレイヤーがもっともアツくなれる値らしいのだ。


茂木健一郎さんの『脳内現象』(2004)によれば、

<引用(一部改変)>

ドーパミンという情報(神経)伝達物質を放出するニューロンをドーパミン細胞というが、脳の大脳基底核という領域にあるドーパミン細胞がシナプスを伸ばす経路のうち、A10(エーテン)と呼ばれる経路は「快楽」を担う経路として有名である。この経路が活動すると快楽の感覚を生じるのだ。

2003年に、イギリスの神経学者ウォルフラム・シュルツらは、ドーパミン細胞を中心とする情動系が、不確定性をどのように処理しているのかを示唆する、画期的な発見をした。シュルツらは、ドーパミン細胞が、報酬を表現するだけでなく、報酬が来るか来ないかわからないという不確定性そのものを表現していることを見いだしたのである。

シュルツらは、猿に対して、コンピュータ画面上に特定の図形を刺激として提示し、一定時間後にちょうど0.5の確率でジュースなどの報酬が与えられるということを訓練で憶えさせた。

すると、猿のドーパミン細胞は刺激提示後、0.5の確率で報酬がもらえると予想される時刻まで、ある一定の活動レベルを保ち続けることがわかったのである。

シュルツらは、報酬を与える確率を0から1まで様々な値に設定して実験を行った。その結果、確率が0.5の時に、先の保ち続けられる活動レベルが最大になるということを発見したのである。

<引用終わり>


だという。

これによると、不確定性が一番大きいとき(報酬確率=0.5のとき)にドーパミン細胞は最大に活動する、つまりそのときもっとも快楽を感じるようになっているのだ。

これを読んで海物語に設計されている魚群リーチを思い出さないパチンコファンはいないにちがいない。海物語シリーズはおそらくパチンコ史上最高のヒット作だとおもうけど、その理由が大当り信頼度=0.5の魚群リーチにあることを、イギリスのシュルツさんたちが証明してくれたのだ。

それをその遙か以前に予見していた三洋物産海物語シリーズのデザイナーたちに拍手を送りたい。

これはおそらくあらゆるギャンブルにおける快感原則と考えることができる。当たるか当たらないか。ふたつにひとつ。あなたがそう思えるとき、そのギャンブルはあなたにもっとも快楽を与えてくれるだろう。